once 28 願掛け***28***部屋のドアを開けると、朝子はのろのろとベッドまで歩き、呆然としたままそこに座った。窓からは今姿を現したばかりの朝日が僅かに見える。 私の勇気は、何のためだったの・・・・・? その自問の答えは、彼女自身にももうわからなくなっていた。 想いを断ち切るために来たのよ・・・。なのにどうして、この気持ちは何倍にも膨らんでるの? 有芯、どうしてこんなに苦しいの? 10年も経ったのに・・・。朝子はため息をつき、両手で顔を覆った。 (川島さん、あなた程度の女を、有芯が本気で好きになるとでも思ってたの? 彼はね、その気になればもっといい女と付き合えるのよ? だいたい、あなたって彼の好きなタイプと全然違うでしょう? おかしいと思ってたのよね。) (ウソだと思うなら調べれば? あなたが1ヶ月前に振った他校の男子、有芯の幼馴染なのよ。) (かわいそうに、騙されてたことにも気付かないうちに捨てられちゃうなんてねー。) あの時はもう死んでしまいたいと思っていた。キミカにすら何も話さず、自分を呪い続けた。毎日、倒れるほどタールとニコチンを摂取しつづけ、煙草の吸いすぎで癌になって死のうと思っていた。 有芯は、朝子がその後すぐ、今の旦那と付き合い出したと言ったが、それは違っていた。彼はその時はただの友達で、勝手に学校まで車で迎えに来ては、朝子に嫌がられていたのだ。 指の間にこぼれた涙を見て、彼女は我に返った。・・・やだ。化粧、剥げてる・・・。 朝子は丁寧に化粧を落とし、のろのろとシャワーを浴びた。その体には、ちょっとでもきれいになって有芯を悔しがらせてやろうと、半年前からはじめたダイエットの成果がきちんと現れていた。ただ、腹には隠しようのない大きな妊娠腺が走っていたが。 もし今日また会ったら、有芯と寝てしまうかもしれない、と朝子は思った。高校時代、合宿前の授業中に感じたのと同じ予感がする。 いっそのこと、会うのをやめようか? それがいいわ。そうすれば、何事もなくて済むじゃない。 ・・・でも、そしたら、有芯は? 一人で寝たきりになっている被害者の子に会いに行くだろうか。多分行かないだろう。私にも責任のあることだし、やっぱり行かなくてはならない。 でもどうしたらいいの?! 私には夫がいる。子供もいる。 子供が生まれた瞬間から、私は一生不倫なんかしないと誓った。ママがパパ以外の男の人と関係を持つことは、子供にとって耐えがたいと思ったから。 そして、もちろんその誓いを今日まで守ってきた。 ・・・・・。 朝子は体を拭くと、目の前の下着を手に取り見つめた。これを、有芯に見せるようなことがありませんように・・・。 願をかけると、彼女はそれを身につけた。 29へ |